今日の一件で、刹那の思いを知り過去に区切りをつけたはずだった。つけることができたと
思っていた。ベットに横になり目を閉じても睡魔が襲ってくることはなかった。変わりにやって
きたのは頭の奥に押しやっていたはずの思いで、自身の意思に反して次々とあふれ出してき
た。刹那が俺から父さん母さん、まだ小さかったエイミーを奪い、幸せだった生活をめちゃく
ちゃにしたあの組織に関わっていたなんて。・・・信じたくない。刹那が直接家族の死に関係な
いことは、刹那の年齢的にも明らかなのに。長年胸でくすぶりつづけていた憎しみは膨れ上
がるばかりだった。捌け口を求めていたその負の感情が近くにいる刹那に矛先が向かうのを
止められない。俺の大切な大切な人たちだったのに、一瞬で奪われた。敵を討ちたい、俺が
殺す、殺してやるとずっと思い続けてきた。だけど・・・。どうして、なんでよりにもよって刹那な
んだ。不器用だけどとても優しくて、年下の癖に俺を甘やかそうとする頼もしい彼。傷つけた
くない大切にしたい。そして叶うならこんなに汚れてしまった俺だけど愛して、愛して欲しい。
***
渦巻く相反する感情に耐えられなくなった俺は、気が付いたら刹那の部屋を訪ねていた。モ
ニターで俺の姿を確認した刹那は、黙ったまま何も言わない俺を不審に思っただろうにドアの
ロックを解いてくれた。様子のおかしい俺を心配してくれたのかもしれない。部屋に入ると刹那
は複雑な顔で俺のことを見ている。そりゃそうだろう、刹那だって今日のことで少なからず戸
惑い傷ついたかもしれないのに。
「ロックオン。」
と刹那が俺のことを小さく呼んだ。その声は気遣わしげで、たぶん今の俺はひどい顔をして
いるのだろう。俺はその声に答えることなく、衝動のままに勢いよく刹那をベットへと押し倒し
た。本人を前にし、ごちゃごちゃと考えることも出来なくなった。そしてそのままずるずると自分
よりも小さな胸へと縋りついた。胸に額を押し付け、刹那のシャツを握った。
「刹那、俺っ…苦しくて。どうしようもなくて、ごめん、こんなみっともない。頭ではわかってるん
だ。どうすればいいのか、けどっ…。」
知らず涙が溢れてきて刹那のシャツにシミを作る。言葉につまりただ泣いて肩を震わす俺
の背を刹那が黙ってなでてくれた。優しいその動きを背中に感じ、嗚咽を漏らしていた俺は呼
吸を整えようとゆっくり息を吸ったりはいたりした。
「大丈夫か?」
「ごっ、ごめんっ…。俺今日ひどいこと言った。・・・刹那だってつらい思いをしてきたって、わか
った、わかったのに。俺はお前に銃を向けてしまった。憎くて!あぁ、憎いんだ・・・。頭の中が
いっぱいになって。一瞬だったけど、殺意さえわいて。だけどっ、俺…っ。刹那のことが好き
で、本当なんだ。あっ、あい、愛してる。もう信じてくれないかもしれないけど。」
一気に言った俺の言葉を刹那は黙って聞いてくれた。そして俺の両肩をつかみ顔を上げさ
せると真っ直ぐに俺の目を見た。ああ、まだ俺のことを瞳に映してくれるのか。
「大丈夫だから、落ち着け。」
「っでも・・・。」
「お前の気持ちを疑ったことは一度もない。もちろん俺の気持ちも。それが全てだ。」
「…っ刹那、刹那。俺の名前。あん時聞いたよな?…一度でいい。呼んでくれないか?そした
ら俺…ちゃんと、ちゃんとするから。もう、迷わない。」
刹那は瞳をそらさず、俺のことを見ていてくれた。そしてゆっくりと手を伸ばし、俺の顔にかか
っていた髪をそっと耳にかけてくれた。強い意志を秘めた赤い瞳は嘘をつくことを知らないか
のように澄んでいる。
「ニール。ニール、例えこの先何があったとしても俺はお前が好きだ。」
初めて愛しい人に本当の名を呼ばれる幸せをかみしめた。本当は許されていないことだか
ら最初で最後になるだろう。刹那の口から自分の名前が紡がれると、胸にあったどろどろした
気持ちが驚くくらいに晴れていった。変わりに溢れてきたのは懐かしい、そう、かつては家族
へと向けていた愛情で。その人がいるというだけで、何もしてくれなくてもいいと思える。ただ俺の
傍に存在してくれることが堪らなく嬉しかった。素直に今のこの気持ち、感じたこの思いを
信じていけばいいのかもしれない。信じていきたい、お前と俺自身を。
***
「なあ刹那。」
「なんだ。」
「俺のこと好き?」
「さっき言っただろう。」
「ん、じゃあどんぐらいだ?」
「……。」
「なあ、せーつーなー。」
「・・・。エクシアの次にしてやってもいい。」
「それって、すげぇってことだよな?」
<刹那を男前にしたくて仕方がないです。最低限の言葉しか使えないのが難しいですね。>
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